NexTech Weekに行ってきました。(AI人流解析編)

先日、NexTech Week2024春という展示会に行ってきました。先月に引き続き、AIの現状について展示会に行ってきた感想と、追加で調べたことをお伝えしたいと思います。今回のテーマは、「AIの人流解析」です。

AI人流解析の現在地

2024年現在、人流解析技術は大量のデータ格納、AIによる膨大なデータの処理が可能になり、様々な分野で活用されるようになりました。例えば・・・

  • 小売店のマーケティング:時間帯や曜日による客層や、広告を見た後の行動分析など
  • 商業施設や展示会の設計:テナントの賃料設定や混雑回避
  • 工場の動線分析や危機回避:熟練作業員と新人の違いや効率的な動線を分析

今まで感覚でやっていた時間帯や時期による商品の配置換え、混雑予測、動線の確保を、実際の人数を分析しながら決められるということです。

よくあるのは、フードコートでも小売店でも「購入者数はわかっている。でも、どれだけの人数が店の前を通過し、何人がメニューを見て、何人が入店し、どの広告を見て商品を購入したか?というファネル構造がわからなかった。そこを人流解析で解決!」という事例です。

この時間混むからバイトを1人増やそうか、この広告を出してから商品が売れてる気がする・・・というような感覚値ではなく、エビデンスに基づいて施策を打とうということですね。

では、AIが人流解析にもたらしたインパクトとは何か?それは、リアルタイムに大量のデータ処理が可能になったことです。
今までの人流解析は主に人によるカウント、赤外線センサ、カメラの画像解析、GPSデータなどを使っていましたが、データ取得や分析に時間がかかったりコストが大きかったりしました。

しかしAIの発達と普及によって、データ取得や分析が広く・速くでき、コストは小さくなりました。これからさらに様々な分野に活用されていくものと思われます。

今のAI人流解析の課題

AIの普及で技術的にはリアルタイムに大量の解析が行えるようになったとはいえ、データの品質と量を確保することは依然として大きな課題です。

高精度なモデルを構築するためには、大規模なラベル付きデータセットが必要ですが、これを収集・管理することは容易ではありません。また、計算リソースと処理速度の問題もあります。
特に動画解析では、リアルタイムでの処理が求められることもありますが、これには高い計算能力と効率的なアルゴリズムが必要です。

そうした分野に資金を投入できる大企業や、補助金や大学の研究資金を活用できる公共機関からAI人流解析が広まっていくのは自然な流れだと思います。

ただ、2022年にはソフトバンクが中小規模の小売店向けの人流・気象データによる来店予測を月5,000円で提供を開始するなど、中小企業の選択肢として、AIも手の届くところまで来たなというのが今の状況です。
ソフトバンク、中小の来店予測を割安に

先ほどデータの品質と量が課題とありましたが、具体的にどのような品質の課題があるかというと、主に以下のようなものです。

  • 人が重なった時、別人と捉えられてしまう
  • AIの学習モデルの偏り(日本人が多い、子供が少ないなど)によって、使い物にならないデータになる場合がある
  • 店員と客、男と女、若者と高齢者といった判別の精度がまちまち

各AI開発会社は「判別可能になりました!」「どんな状況にも対応!」などと謳っていますが、学習モデルが明かされない以上、当たってる確率が高いっぽい・・・ということしか私たちには分かりません。

今回の展示会でも、学習モデルまで明かしているところはあまりありませんでした。担当者にすごーく深く聞けば教えてくれるかもしれませんが・・・

株式会社インテージテクノスフィアの「label note」

今回の展示会での出会いは、株式会社インテージテクノスフィアが開発した「label note」です。label note 高精度なAIカメラによる 人流データの活用
この会社は、システムの開発・保守、マーケティングリサーチ、データ分析、などを生業とする会社です。

「label note」はAI人流解析で店舗や商業施設のマーケティングのみならず、街づくり、工場の動線可視化、広告効果測定など様々ものに活用できるAI人流解析システムで、会社の資産を最大限使っているソリューションだなという印象を受けました。

できることは主に以下です。

このサービスの特徴は、人同士の重なっても高い精度で識別可能であり(1時間4000人が通過するエリアで95%の精度)、複数カメラでの同一人物追跡できるので、大規模な施設にも使えることです。

さらに機材の設置、データ活用まで伴走してくれるので、導入から分析まで一括でお任せできるところが強みだと思います。

気になった事例は客引きを特定するAIを開発した事例です。
客引きは夜間に行われるのでなかなか動画解析ががむずかしかったらしいのですが、イベントセンサーカメラを設置し対応したそうです。
「どんな移動モデルが客引きと判断されるのか聞けばよかった・・・!(後悔)」

事例を聞いていくと、AIモデルの開発から機材の設置、データサイエンティストが分析まで行うので、相当な資金力は必要になると想像してしまいますが、技術的にここまでできるのだなぁと素直に感心しました。

AI画像・動画解析の今後の展開

AI画像・動画解析技術の今後の展開には、さらなるディープラーニングの進展が期待されています。

例えば、もっと少ないデータから現実世界の複雑な状況にも柔軟に対応するAIモデルが実現されるとか・・・
デバイス間連携がさらに強化され、リアルタイムのビッグデータ処理による個別最適化された広告が流れるとか・・・
自動運転も、レベル4が街中で実現するかもしれません。

ただ、プライバシーの問題は避けては通れません。僕の大好きな伊藤計劃さんの小説「虐殺器官」では、テロを撲滅するため何をするにも認証・・・認証・・・認証・・・という世界が描かれます。
お店に入るたびに、何かを買うたびに、検索するたびに、ログがクラウド上に残って、30歳くらいの人間であれば勝手にAIが400ページくらいの伝記を書いてくれる。という感じの世界です。

虐殺器官は2007年発表の作品ですし、ビッグデータとプライバシーに関しては10年以上前から議論されている話題ですが、AIの登場でより複雑になった気がします。

AI人流解析のこれからの活用事例だけでなく、それに付随する議論にも注目していけると良いなと思います。