皆さんは「玉寿司大学」という学校はご存知でしょうか?おそらくご存知ない方の方が多いと思います。実は玉寿司大学は大学ではなく、チェーンすし店である築地玉寿司の教育プログラムのことを指します。この教育プログラムの特徴は、本来親方について3年かかる修行内容を3ヶ月の研修に落とし込み、その短い研修を修了すれば現場に出られるようになる点です。「飯炊き三年、握り八年」と言われている厳しい徒弟制の寿司の世界において、かなり画期的だといえます。この研修を修了した新入社員は早期にスキルを習得することができるので自信やモチベーションが向上し、また仕事全体の解像度が上がるので自分が何をすべきか主体性を持って働けるようになります。その結果、従業員の満足度が上がり、離職率が平均30%と非常に高い飲食業界においては異例の離職率4%にとどめることができています。この事例は、未経験新人の研修はできるだけ早く終わらして、下積み期間は無くした方が早期の離職は防ぐことができるという一つの証左となります。
私の前職の電話営業時代を振り返ると、下積み期間を無くすことはできていませんでした。電話営業の下積みとは、成約率の低いリストをかけ続けることであり、下積みを終えれば成約率の高いリストをかけることができます。私がどのリストを誰がどれくらいかけるか決められるようになってから、新人が合計6人ほど入ってきましたが、全員に下積みを経験させました。期間は短くて半月ほど、長くて3ヶ月程度だったと思います。なぜ下積み期間を設けていたかというと、成約率が高いリストを発展途上の営業マンがかけることによる取れるはずだった契約の損失を防ぎ、成約率の高いリストの希少性を理解しリストを雑に扱わないようにするためでした。ただ、この下積み時代が長引くと、営業成績を伸ばせず収入も得られず、早期離職につながってしまうので、どの程度のレベルになれば成約率の高いリストを任せるかを決めることがとても難しかったです。早めに成約率の高いリストを新人に渡せば、短期的には契約数が落ちてしまうものの、新人が定着して戦力となる人員が増えるため、長期的には部署として成長する可能性が生まれることになります。また、知人の他業界の会社でも似たような悩みがあるらしく、研修を終えた新人をどのタイミングで一人前として扱うかを決めるのは、どの業界分野においても明確な基準を決めるのが難しく、上司の属人的な判断になりやすいのだと思いました。
このように、下積みを卒業するタイミングを見極めることは難しいのですが、下積み期間を短くするということにスポットを当てればできることが一つあります。それは玉寿司大学の事例でもあった研修の充実です。私の営業時代でも、入社時期は私より早いのにも関わらず成績が芳しくなく、長い間下積みをしているアルバイトがいました。ずっと獲得契約数がゼロなので、当時の上司は諦めてアドバイスも下積みから抜け出すチャンスも与えていませんでした。私はそのアルバイトは契約が取れないながらも真面目に仕事をしているのを見ていたので伸び代があると思い、2日ほどかけてじっくり丁寧に教えて、少し成約率の高いリストをかけさせてみるとそこで結果を出すことができ、下積みを抜け出すことができました。結果、そのアルバイトは私は2日間通常通り働くよりも大きな利益を出してくれました。この成功体験から研修の重要性を理解し、現在新人営業マンが最速で一人前になれるようなシステムを企画しているのですが、いずれはこのような最速で一人前になるための研修をどの業種や部門、特に一人前の定義が曖昧で言語化しにくい、暗黙知が多いところでも作れるようなフォーマットを作りたいと思います。